2010 広島大学・中国放送共同制作番組 広島大学テレビセミナー・ラジオセミナー

読書という羅針盤『大学新入生に薦める101冊の本新版』(岩波書店、2009年)から
『 大学新入生に薦める101冊の本新版』(岩波書店、2009年)は、広島大学教員が新入生のために執筆した読書案内です。
「たった一人、無人島に流されることになると、もっていきたい本は?」と問われることがよくあります。本はなくてもよいのかもしれませんが、あると心が豊かになり楽しみがふえるのも確かです。インターネットの進展や電子書籍等の普及につれて、読書についてのわたしたちの対応も変化してきているようです。このラジオセミナーでは、『101冊』で取り上げられた著作を参考にしながら、4人の学者の視点から、読書が現在どのような状況におかれているのか、読書は私たちに何をもたらすのか、そしてそもそも読書とはどのようなことであるのか、といった問題を、セミナーをお聞きの皆さんとともに考えたいと思います。

<放送のご案内>
RCCラジオ 第1回 第2回 第3回 第4回 放送時間
放送日(毎週土曜) 11月13日 11月20日 11月27日 12月4日 21:00〜21:30
※放送時間が変更になることがありますのでご承知おき下さい。
聞き手:吉田 幸
≪聞き手≫
寺内 優アナウンサー

第1回 本を読むということ 【11月13日(土) 21:00〜21:30】
越智 貢 おち みつぐ[文学研究科 教授]

 なぜ私たちは読書をするのでしょうか。個々の理由はさまざまでしょうが、いずれにも当てはまることがあります。何かを知りたいという欲求です。情報を知りたい、過去を知りたい、方法を知りたい、本質を知りたい…。このように、「読む」という行為は「知る」という行為に直結しています。しかも、それらの行為には大きな力が秘められています。世界を変えることすらあります。フランス革命をもたらした動因の一つは百科全書だと言われています。現代日本の基礎を築いた明治期には、ミリオンセラーがいくつも生まれました。人間以外に読書をする生き物はいません。この人間的な営みの意味を『101冊』を手掛かりに考えてみたいと思います。

第2回 本を読み、世界を読む 【11月20日(土) 21:00〜21:30】
日下部 眞一 くさかべ しんいち[総合科学研究科 准教授]

 幕末から短期間で近代化してきた日本の歴史は、19世紀末からの西欧における急速な科学技術の進歩の時代にも重なっていて、いろんな分野で、わたしたちのものの見方、考え方に大きな変化を与えてきました。福沢諭吉の「学問のすすめ」から今日までの教養書(ノンフィクション書籍)の流れをふりかえりながら、新しい時代の読書の楽しみを考えてみましょう。このような様々な時代に活躍し生き抜いてきた人たちの記録や様々な学術分野で既成の枠を超えて新領域を切り拓いた記録は、わたしたちが生きていく大きな励みにもなります。そんな書物を『101冊』の中からいくつか選んで語ってみましょう。

第3回 読書から知る「平和」 【11月27日(土) 21:00〜21:30】
布川 弘 ぬのかわ ひろし[総合科学研究科 教授]

 戦争を体験した世代の人口が確実に減っていくなかで、被爆体験の継承をはじめ、戦争体験をどのように継承していけばよいのか、私たちにとって大きな課題となっています。戦争の体験、あるいは戦争や平和に関する思想のメッセージの結晶が書物であり、それは着実な継承のための媒体です。『101冊』では敗者の戦争体験とその思想に焦点をあて、書物を選びました。それらの書物は、痛切な体験のなかで、平和への切実な思いを 抱き、同時に自分たちが廃墟のなかで立ち上がる足場を固めるものでした。五感を通じて戦争の悲惨さに触れ、本源的な平和への思いを培うとともに、私たちが担うべき社会や国家の屋台骨を築いていく意味で、重要な財産になります。

第4回 読書からひも解く現代と日本 【12月4日(土) 21:00〜21:30】
吉村 慎太郎 よしむら しんたろう[総合科学研究科 教授]

 グローバル化が進む現代という時代は、「混迷」のまっただなかにあります。貧困、紛争、環境、テロ、核開発など、数多くの問題が地球規模で深刻の度を増す一方、誤解、偏見、相互不信が国益とも絡み合い、問題解決に向けた協力関係への展望さえ、なかなか見出すことはできません。こうした現代世界の危機的状況に、私たちはどう対処していくべきでしょうか。ここでは、迂遠ながら、イスラム理解をひとつの事例に、「異文化」理解の重要性、それが切り開く世界大での「対話」の可能性、さらに日本が果たすべき役割について、『101冊』を手掛かりに皆さんと一緒に考えていければと思っています。