審議したのは、5月3日に放送したテレビ番組「牛と家族の10年」です。
今年3月、東日本大震災から10年の節目に放送された全国ネット番組で取材した福島の酪農家と震災後に福島から広島に牛と一緒に家族で避難してきた酪農家を取材しまとめた特別番組です。
【制作担当者の説明】
全国ネット番組では取材したのに放送できない部分が多くあり、それを広島で伝えたかった。「僕たちは3月11日だけではなく、日常を失いました」と広島の酪農家・福元さんに言われたことが心に残っていました。ゴールデンウィークの日中に放送して、広島の人に東北の震災のことを少しでも身近に感じていただきたいという思いで制作しました。
【委員の方々からのご意見、ご感想】
- 番組の導入部分に大学生が行った福島の写真展のシーンがありましたが、番組内容とは関係なかったように感じました。
- 広島・福島と画面の右上に紹介があり理解の助けにはなりましたが、場面がどんどん切り替わり頭の整理が難しかった。
- 帰還困難区域など、言葉がどういう意味を持っているか、10年経って忘れかけているところがあるので、改めておさえ東日本大震災からの現在の避難の状況などデータ面で補強してもらいたかった。
- 広島と福島の酪農家がそれぞれ震災から10年が経ち、現在こういう状況にあると始めに伝えてもらえると、さらにわかりやすくなったのではないか。
- 最後のシーンで「お先」と広島の酪農家、福元さんが言われたとき、前に進んで行こうという彼のメッセージとして伝わってきました。
- 2人の酪農家のやり方は違うが牛を愛しているという共通の思いが伝わってくるシーンがあり、印象深かった。
- 福元さんがやりたかったができなかったことやそれをどうやってカバーされてきたのか、悔しさや苦労の感情の激しい部分を知ることができたら、最後のシーンがより際立ち、さらに揺さぶられたかもしれないと感じました。
- 2人の酪農家は福島に根付いてその場所を活性化していくことを期待されていたのに、一方はできず、一方は叶えようとしている。個人のせいではないこの部分をメインに掘り下げていたら骨太になる問題ではなかったか。そこを、家族や子牛で見やすい映像になっていると少しはぐらかされた気持ちになりました。映像が良かったがゆえに引っかかる部分がありました。
- 見る側に考え方や感じ方の自由度や余白を与えられているような気がして、好感が持てました。
- 広島の酪農家の福元さんが、自分の居場所が少しはここにあるのかなと思えるようになったと終盤で語られていましたが、そう思ってもらえたことが広島県民の一人としてありがたく感じました。
- 過疎高齢化、後継者問題、搾乳の自動化や6次産業化など社会が抱える問題を捉えていました。自分も苦労しているが頑張っている人は他にもいるなど、共感が持てるシーンが多くあり、示唆に富む番組でした。
【番組担当者の返答】
最後のシーンの意図が伝わっていて嬉しい。広島の酪農家、福元さんが気持ちを整理できていない部分をカメラの前で話してくださるところをもっとうまく聞き取ったり、番組で表現できたりしていたら良かったと思い、力不足を感じています。ご自身が複雑な思いでいらっしゃるのを自分が色づけするのも難しいと感じ、福元さんが歩んでこられた道のりを福元さんの言葉で聞いて感じていただきたいという思いがありました。福元さんのように福島には戻らないという選択をせざるを得なかった人は震災の影響でたくさんいらっしゃったということを深掘りできなかったことは今後の課題です。